「ドライヤー借りちゃった」

「問題ない。こっちに来い」


制服をそのまま着てカイト君の部屋に行った。薄暗い部屋の中、カイト君はベッドに座ったまま私を手招きした。
私はおずおずとカイト君の隣に座れば、ぎゅっと抱き締められた。私もぎこちなく抱きしめ返したけれど、特別どきどきしなくて、何か変な違和感を感じただけだった。本当にとっても変な感じ。


「好きだ」


甘く囁くように言われても、私は好きと返せなかった。黙ったままでいると、カイト君は唇を重ねてきた。数秒間キスした後、「好きと言ってくれ」と言われてしまった。


「私も…好き、だよ…」


嘘だった。私はカイト君のことが好きかどうかわからなかった。さっき、凌ちゃんに未練があることを確認したばかりだったからだ。でもカイト君を悲しませたくなくて、言っただけだった。
カイト君は微笑んで、私をまたぎゅーと抱き締めると、キスを再開した。さっきよりも勢いのあるキスでびっくりした。今起きていることが現実に思えなくて他の誰かがカイト君とキスしているみたいに感じられた。カイト君とのキスは嫌じゃないけれど、凌ちゃんとのキスを想像したら、そっちの方が夢みたいに魅力的に思えた。
段々頭がボーッとしてきた頃、カイト君に押し倒された。ちょっと驚いたけれど、まだキスが続くと思ってたからそのまま受け入れてた。そしたら、カイト君が、少しの間腰を動かし始めたので、さらに驚いた。何か固いものが当たって擦れる気がした。カイト君が何か変だ。



「ぁ…」


カイト君に胸の回りを触られ、感じたこともない変な感覚に思わずビクッとしてしまった。指先で円を描くような様子がカイト君の細くて白い指と相まってとてもいやらしく思えた。ここまできてカイト君がしようとしていることに気づいてしまった。
段々恐ろしくなってきて、カイト君の手首を掴み行為を止めさせた。


「カイト君、だめ…」

「怖いか?」

「うん…」

「それは俺が嫌いだからか?」

「違うよ!嫌いじゃないよ!私学生だし…卒業まで待てないかな?」

「待てない」

「何でっ…!」

「おまえがどこかに行ってしまいそうで怖いんだ」

「そんな…私どこにも行かないから大丈夫だよ」


肉体的関係なんて持たなくても、付き合っていけるはずなのに。だけどカイト君は頭を振った。


「関係を持たないと不安なんだ」

「そんなの…そんなの…」


おかしいよ、とは言えなかった。カイト君を否定したくはなかった。


「俺はおまえにとってどんな存在だ?」


私が何も言わずにいると、カイト君は苦しそうに聞いてきた。少し迷ったけれど難しくない質問だった。


「私の、彼氏だよ」

「そうか…ただの依存の対象じゃないんだな」


一瞬、ぎくりとした。私を見下ろす目を見ることができなかった。


「違うのか?」

「依存なんて、してないよ」

「…なら、いいだろう?」


カイト君が私の剥き出しの太股に触れる。ぞわぞわする感覚に耐えられず、止めてと叫んだ。叫んでもカイト君は止めなかった。振り上げた両手はカイト君の片手だけでまとめて押さえつけられてしまった。


「好きだ。愛してる」


カイト君は私の首に顔を埋め、首にちゅっと音を立ててキスした。空いた片手で制服の上着を捲りあげられ、胸が露になり、カイト君が少し固まった。
お風呂に入ったあとだから下着は身につけてなかった。どうせ胸は大きくないからバレないと考えてた。今更とんでもなく恥ずかしくて、怖かった。


「着けてないんだな」

「み、見ないで…!」

「いや、すごく可愛いよ」


急に優しい顔で髪に触れられた。私は全身が熱くなるのを感じた。羞恥が恐怖と同等くらい私の気持ちを占領し、誰からも隠れたくなった。
カイト君がまた首に顔を埋めてきた。 耳元にカイト君の荒い息がかかり、涙がじわりと目頭にたまった。


「こんな姿他の誰にも見せたくない。あいつにも…」


凌ちゃんのこと、とは聞けなかった。そのときのカイト君の声はとても低く怖かったから。
カイト君が、私の胸を包み込むように触れた瞬間、もうそれが限界だった。


「いやぁぁぁぁ!」


さっきよりも弱ったカイト君の片腕の束縛から逃れ、カイト君を押して玄関まで走った。後方で私の名前を必死で叫ぶカイト君の声聞こえたけれど、止まる気はなかった。私は靴を履いて、カイト君の家をでた。
カイト君からできるだけ離れたかった。いくら走っ て遠くに来ても十分な距離には感じられなかった。帰路の駅に着いたとき、やっと落ち着いて歩くことができた。
もうカイト君なんて見たくも考えたくもなかった。だからか家に帰る気になんてなれなくて、家の手前の駅で下りてあてもなく歩いた。









強すぎた引力
(もう誰も信じられない)



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